ヨセミテに行こう


第94回 -付録- : ハーフドーム登頂を終えて

 飽きもせず我が家は何度もヨセミテに行くが、 ハーフドーム登頂の時だけは毎度、子どもたちと私はお留守番。 腕白小僧3人を相手に疲れ始める昼前後に決まってハーフドームの頂上から夫が電話をかけて来る。 その声は決まって疲労困憊している。「これっきり」と、何度彼は言った事だろう。 なのに彼はそれからも何度も登りに行く。 自分でも不思議だと首をかしげる。 その名も名づけてハーフドームシンドローム。

 そんな中、夫は私をどうしてもハーフドームのてっぺんに連れて行きたいと思ったらしく、 勝手に計画を立ててしまった。 それでも友人の協力が必要とあってサプライズとは行かなかった。 まあ、そのおかげで、私としては心の準備が出来て良かった。 いきなりハーフドームに行くぞと言われても、いつものハイキングとは訳が違う。 非常に過酷なハイキングになろうことは百も承知。かなりな覚悟と意気込みが必要である。

 あれよあれよと言う間に登頂前日はやって来た。 ヨセミテに行く道中はいつもとは違って気が重い。 意気地なし、自分でもそう思った。 出来るのだろうか、自信が無い。 しんどいだろうなぁ、やる前から気持ちは負けていた。 それでもキャンプ場では子どもたちを友人一家に押し付ける形になり、テントの中でゆっくりくつろげた。 ここまで来たらやるしかないと腹をくくって眠りについた。

 目覚ましでバッチリ目が覚め、緊張しているのが自分でも分かる。 さっさと用意を済ませいざ出発。 思いがけず空気が生暖かい。 辺りはまだ暗く、熊に会いませんようにと願いつつ足早にトレイルヘッドに向かう。 途中、夫が熊のトラップだと道草をしようとするのを制止し先を急ぐ。 この時、私はとにかく早く帰って来たい一心だった。 子ども達のことも心配だし、何より苦しいことはさっさと終わらせたい気持ちで一杯だった。 夫を急かしトレイルヘッドに到着。 ここでまず記念撮影。いよいよ本当に出発である。 空には満天の星が瞬いている。生暖かい風を感じながら懐中電灯を頼りに登る。 心なしか夫の足取りが重いようだ。 おかげで気持ちが随分楽になった。 置いて行かれることはないだろうという安心感だった。

 ミストトレイルとジョンミューアトレイルとの分岐まで来るとすっかり明るくなって歩き易くなった。 いよいよこれからという気になる。 ネバダフォールの先は私にとって未開の地だった。 いきなり冷たい空気にすっかり体は冷え切ったが、歩いていれば体も温まるだろうとそのまま歩き続ける。 お腹は空くが、食べる気力がなく水分だけを十分取りながら、なるべく休憩を取らずに先を急ぐ。 重い荷物をいったん下ろして休むと歩き出す気力が失せてしまう。 それ自体が気持ちの上で負担になるのが嫌だった。

 とにかくきつかったのはハーフドームまで残り3マイル地点から岩場を登り始める前まで。 足が前に進んでくれないのでかなりストックの世話になった。 重い荷物と腕力への負荷から肩が異常に凝っていることを自覚しながら登って行った。 最後の岩場は振り返るとMt.ホフマンが真正面に見えて、 そんなわけはないけれど、がんばれ!と応援してくれているような気がした。 階段状になっている岩場は一歩進めばぐんと上に登れるので気持ちがとても楽だった。 階段が終わると岩山を登るサルのような気分。 ケーブルはもう直前なのでゴールも近い。 人間は気の持ち様。これまでの疲労が吹っ飛ぶかのように元気になった(ような気がした。)

[img:on the top]

 そしていよいよケーブル。 気持ちを楽にしてくれたのは、ケーブル下に荷物を置いていくことだった。 ケーブルは高所恐怖症の私にとっては難関だと思っていたが、 傾斜や高所であること自体はケーブルに捕まっているため気にならなかった。 時々しなれない皮手袋が滑って冷やっとすることもあったが平気だった。 何よりゴールはすぐそこであることが心を全て支配していた。 そしてとうとうハーフドームの頂上に着いた。

 感動は少ない。 でも景色そのものは前日の霞んだ空よりもずっと視界が良い。 一休みできそうな場所を見つけて寝転がる。 景色を眺めているよりも体を投げ出して寝ている方が気持ちがいい。 夫の言葉通り、ハーフドームは見ているに限る。 では何故、彼はハーフドームに何度も登るのか? 私ははっきり言って、もう来ないぞと思う。 それは下って下界に戻った時に決定的となった。 下りの途中から膝がひどく痛んだ。 本当に最後の最後は痛くて歩けないくらいだった。 そんなわけで2日後にはカイロにも行った。 只の筋肉痛ではあったが、あんな痛みはもう懲り懲り。 ハーフドームも一回行けば十分という気になる。 こんな感じというのが分かった今、 子どもたちを連れて登るのは夫の役目だと勝手に決め込んでいる今日この頃である。

[2003-10-25 : Maripoa にて Mikiko.S]
第94回 -付録- : ハーフドーム登頂を終えて
[YNP] T94M79S82M83T65
[SN] T110M92S96M97T74

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回
第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回 第17回 第18回 第19回 第20回
第21回 第22回 第23回 第24回 第25回 第26回 第27回 第28回 第29回 第30回
第31回 第32回 第33回 第34回 第35回 第36回 第37回 第38回 第39回 第40回
第41回 第42回 第43回 第44回 第45回 第46回 第47回 第48回 第49回 第50回
第51回 第52回 第53回 第54回 第55回 第56回 第57回 第58回 第59回 第60回
第61回 第62回 第63回 第64回 第65回 第66回 第67回 第68回 第69回 第70回
第71回 第72回 第73回 第74回 第75回 第76回 第77回 第78回 第79回 第80回
第81回 第82回 第83回 第84回 第85回 第86回 第87回 第88回 第89回 第90回
第91回 第92回 第93回 第94回 第95回 第96回 第97回 第98回 第99回 第100回
All List


[トップページ] [ヨセミテ国立公園] [ヨセミテへの道] [ヨセミテに行こう] [ヨセミテチップス] [ヨセミテ周辺] [ヨセミテリンク] [ヨセミテ掲示板]

T4 : T4@99km.Net
[img:home]